第89章

「向かいの通り!」

渡部綾香の目が、氷みたいに冷えた。

ごろりと転がった、その隙に。左手はすでに腰の後ろ――服の陰に隠したホルスターへ滑り込み、躊躇なく拳銃を抜き放つ。

体勢がまだ整いきらないまま、音の方向と身体に染みついた感覚だけで腕を上げた。

パン、パンッ!

二発。連射。弾丸は向かいの建物の影――人の気配が潜んだ角へ、寸分違わず突き刺さる。

当てる必要はない。狙いは制圧と牽制。動きを止めるためだけ。

乾いた銃声が、がらんとした通りに反響して耳を刺した。遠くで車の警報が鳴り、誰かの悲鳴がかすかに重なる。

明里は渡部綾香に地面へ押さえつけられ、全身を震わせていた。涙と鼻水で顔...

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