第97章

「今のところはありません。相手は用心深く、足取りもつかめない。こちらが撒いた「餌」に、ノルが食いつくかどうか――」

そこまで聞いた瞬間、渡部綾香の眼差しがすっと冷えた。

沈村敦司はやはり、祖父のことを嗅ぎ回っている。闇夜の行方も追っている。

彼の言う「餌」とは、あの傲慢な置き手紙のことだろう。

――やっぱり、私が甘かった。

虚勢の一文を残しただけで、自分から危険に踏み込んだ。幸い、表向きの身分がある。すぐに疑われはしない。だが、油断は油断だ。

沈村敦司は、いったいどこまで掴んでいる?

闇夜がどうやって生まれたのか。渡部綾香自身、細部までは知らない。答えを持っていたのは祖父だけ―...

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