第36章

山本翔一の突然の出現で、私は気づいた。単に病院へ佐藤美咲に謝りに行かせるという単純な話ではなく、もっと大きな罠が私を待ち受けているのだと。もし彼について行けば、何が起こるか誰にも分からない。

「お兄さん、疲れちゃった。家に送ってくれない?」

私は意図的に田中太郎に色っぽい視線を送りながら、柔らかな声で言った。

田中太郎は山本翔一がどんな人間か既に知っていたから、当然私の芝居に付き合ってくれた。彼は私の肩を抱きながら居酒屋を出た。

田中太郎は代行運転を手配すると、私と一緒に後部座席に座った。乗車前に私の頬をつまむという仕草まで忘れなかった。一般の人から見れば何でもない動作だが、山本翔一...

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