第39章

夜の帷は墨のように深く、月が天の果てに高く掛かり、微かで冷たい光を降り注いでいた。

風がそっと吹き抜け、僅かな冷気を運んでくる。田中太郎は帽子を少し押さえ、風情のある庭へと足を踏み入れた。

「君の言った通りだ。中村拓海を取り調べたが、確かに誰かに買収されていた。だが理解できないのは、なぜあの百万円が静香の口座から引き出されたのかということだ。本当に静香が彼を買収したのだろうか」

「いや。そんなはずがない」

男の声は低く沈んでいた。

「私は静香をよく知っている。犯人を買収して自分を刺させるなんてことはあり得ない。それに、あんなに誇り高い彼女が、そんな卑劣な手段で敵を傷つけるわけがない...