第51章

田中太郎との別れの後、私は家に帰りたくなかった。田中さんのことを考えながら、一人で賑やかな街を歩いていた。私の暗い気持ちは、周りの活気とは不釣り合いだった。

突然、スマホの着信音が静寂を破った。バッグから携帯を取り出すと、画面には平沢雪乃の名前が表示されていた。雪乃からの電話に、何か彼女にも問題が起きたのではないかと心配になり、急いで電話に出た。

「静香、今何してるの?」平沢雪乃の声は明るく、機嫌がよさそうだった。

「べ、別に何も。今道を歩いてて、家に帰るところよ」私は少し気持ちを切り替えて、軽やかに答えた。

「暇なら、高橋教授の家に来ない?」

高橋教授の名前を聞いて、私の胸がどき...

ログインして続きを読む