第64章

部屋に戻ると、山田さんが持ってきた薬を——飲む気になどなれず、すべて植木鉢に捨てた。シャワーを浴びてベッドに横たわり、平沢雪乃とビデオ通話を繋ぐ。彼女は多加島の美しい風景や、買ったばかりのアイドルグッズ、旅行のお土産を見せてくれた。「次はもっと面白い場所に一緒に行こう」と誘ってくれる。彼女が私の気を紛らわせようとしてくれているのは分かっていた。母さんのことを考えさせないように。

今日、青木易揚に言われたことを話すと、雪乃は長い沈黙のあと、こう言った。

「青木易揚は、いい人だよ」

雪乃に言わせれば、あの男は口こそ毒舌だが、本当は私のことを深く案じてくれているらしい。東英法律事務所が、青木...

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