第69章

マンションの下を一回りしてみたが、山本翔一の車は見当たらない。途方に暮れて辺りを見回していると、一台の車が猛スピードで駛走してきて、私の目の前で急停車した。

私は驚いて後ずさりする。ドアが開き、オーダーメイドの高級革靴が地面を踏みしめる。顔を上げると、そこには山本翔一が立っていた。

「どうした? 俺が見当たらなくて心細かったか?」

彼の声は相変わらず平坦だ。

「いいえ、ただ……このお車だとは思わなくて」

見慣れないロールス・ロイスを見つめ、思わずそう口にする。翔一は何も言わず、私を強引に車内へと押し込んだ。

車に乗り込むと、彼が問いかけてきた。

「午前中はどこへ行っていた? な...

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