第116章 優しい男も狂人になる

時川樹は簡単には諦めなかった。なおも食い下がり、言葉を重ねる。

「霞澄、君の自信が誰の言葉から来てるのかは知らない。でも、松本さんがもうあそこまで言ったのに、なんでまだ意地を張るんだ」

松本霞澄の顔色は真っ青だった。血色のよかった唇をぎゅっと噛みしめ、全身で痛みを堪えているみたいに見える。苦しくて、悲しくて――壊れそうな表情。

そんな彼女を見て、時川樹の胸もきりきりと痛んだ。

本当は言いたかった。時川啓文は、きっと「いい父親」なんかじゃない。認めてもらえないなら、それはそれで不幸とは限らない――と。

だが喉まで出かかった言葉を、結局飲み込む。そんなことを口にしたら、自分で自分の正体...

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