第135章 愛人になると決めたのか?

松本霞澄の胸が、またひくりと跳ねた。目の前の光景は、幽霊でも見たかのような衝撃だった。反射的に二歩ほど後ずさりし、ドアノブを握りしめる。

緒方廷治は陰った顔のまま二歩進み、霞澄の目前まで詰め寄った。声を低く落として問い詰める。

「俺が出て行ったのを聞いて、ようやく出てきたのか? そんなに俺の顔を見たくないのか。言え」

獣みたいな剣幕に、霞澄は喉まで出かかった言い返しを丸ごと飲み込み、みじめに俯いて黙り込んだ。

荒い息遣いが耳に刺さる。次の瞬間にでも爆発しそうで、身体がこわばる。

――もうだめだ。

そう思ったとき、緒方廷治が動いた。けれど乱暴に腕を掴むでもなく、ふっと力を抜いたよう...

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