第138章 彼女は去った

緒方廷治は知らなかった。

自分が新谷明珠にどれほど冷たく当たってきたかは、本人がいちばん分かっている。普通なら――少しでも自尊心のある女なら、とっくに婚約破棄を口にしているはずだ。ところが新谷明珠は違った。折れないどころか、叩けば叩くほどしぶとく前へ出てくる。

何度も「もう終わりにしよう」と決めた。きっぱり線を引こうとした。けれどそのたび、保坂昭江の声が、都合よく耳の奥で鳴る。そうしたらどうなるのか――その「結果」を、容赦なく思い出させるのだ。

緒方廷治は認めざるを得なかった。

人はどれだけの権利を享受したかで、背負う義務の重さも決まる。

緒方グループは、彼に贅沢で体裁のいい人生を...

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