第5章

 翔はよろめくように一歩後ずさり、冷たい壁に背中を預けた。

 人工妊娠中絶。

 彼女は、妊娠していた。

 彼の子を、身籠っていた。

 そしてたった一人で、誰にも告げずに病院へ来ると、その命を消し去ったのだ。

「いつ……いつからだ?」

 自分の声が震えているのが分かった。

「たぶん……三十分ほど前です」

 三十分。

 もしもっと早く気づいていれば、もう少し早くここへ来ていれば……。

「神宮寺さん? 大丈夫ですか?」

 看護師が心配そうに顔を覗き込む。

 翔は答えなかった。

 ずるずるとその場に座り込み、両手で頭を抱える。

 脳裏に、数え切れないほどの記憶がよみがえる...

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