第1章 現場を押さえる
「夢子、あなたの旦那が他の女の腕の中で寝てるっていうのに、よく平気で眠れるわね?陸川の奥様の座が危ういとは思わないの?」
別荘の寝室。
三上汐浪はひどく腹を立てていたが、天樹夢子は眠そうな目で尋ねた。「お義母様、今夜はまたどこのビッチです?」
結婚して二年、外の女たちが彼女の離婚を待ちわびて列をなし、姑はしょっちゅう浮気現場を押さえに行けと急かす。天樹夢子にとっては、とうに日常茶飯事だった。
ただ、いつも空振りで、陸川北斗の決定的な証拠を掴めたことは一度もない。
「ホテルのルームナンバーをLIMEで送るから、そいつを引っ張り出してきなさい」一瞬の間を置いて、三上汐浪は付け加えた。「あなたねえ、これ以上北斗に無関心でいると、私だって庇いきれなくなるわよ」
無関心?
それも陸川北斗が関心を持つ機会を与えてくれればの話だ。
この二年、彼が家に帰ってきた回数は指で数えるほどで、顔を合わせるたびに喧嘩別れ。
彼はまるで亡霊でも避けるかのように彼女を避け続けているのに、一体どこで関心を持てというのか。
もっとも、彼女と陸川北斗は昔からこうだったわけではない。彼はとても優しく、いつも彼女に譲ってくれていた。ただ、あの出来事があってから、二人の関係はこうなってしまった。
目を閉じたまましばらく黙り込んでいたが、やがて天樹夢子は身を起こし、気だるげに言った。「お義母様、わかりました。住所を送ってください」
——
三十分後。
天樹夢子がホテルのマネージャーからルームキーを受け取った頃、笹川諭も到着した。
二人はスイートルームの扉の前までやってきた。
天樹夢子がカードキーで扉を開けようとした瞬間、先ほどまで穏やかだった心が、今はどうにも面白くない。
とっくに見慣れた光景とはいえ、自分のものを他人に奪われるのは、やはり多少なりとも不愉快なものだ。
扉が開くと、中から声が聞こえてきた。「四索」
「……」二人。
浮気現場を押さえるのではなかったのか?どうして麻雀をしている?
男たちの傍らに侍る女たちの存在は、やはり不快だった。
特に陸川北斗は、口に煙草を咥え、右手で麻雀牌を弄びながら、隣に座る柊木嶋に甘えるように腕を絡まれている。
卓を囲む男たちは皆、A市が誇る天之驕子、選りすぐりのエリートたちだ。
その中でも陸川北斗は、一際目を引く存在だった。顔の輪郭は極めて端正で、鼻梁には金縁の眼鏡をかけ、髪は無造作なオールバックに流されている。
インテリ風でありながらどこか悪ぶった雰囲気を漂わせ、何度見ても息を呑むほど美しい。
彼の容姿なら、金で女を買うどころか、彼のために身代を滅ぼす女がどれだけいることか。
陸川グループも、彼が継いでから二年でA市のトップ企業へと成長し、誰もが彼に一目置くようになった。
もし彼が昔のままなら、もしあの出来事がなければ、陸川北斗はこの世で最も完璧な夫だっただろう。
陸川北斗は何もかもが素晴らしい。ただ、彼女に対してだけは、もう優しくなかった。
入口に向かって座っていた白上流は、天樹夢子の姿に気づくと、まず驚き、次いで笑顔で挨拶した。「み……」
「……姉さん」の「姉さん」を言い終える前に、陸川北斗の冷たい視線が突き刺さり、白上流は慌てて言い直した。「夢子姉さん、どうしてここに?」
天樹夢子は鷹揚な笑みを浮かべ、ゆったりと中へ入っていく。「会いたくなったから、見に来たのよ」
「よしてくださいよ!」白上流は陸川北斗をちらりと盗み見て言った。「夢子姉さん、その冗談は勘弁してください」
言うまでもなく、北斗兄さんを捕まえに来たのだろう。
この二年、彼らはもう慣れっこだった。
こんなに綺麗な嫁を家に放っておいて見向きもしないなんて、北斗兄さんはいったい何を考えているんだ?
今夜の天樹夢子は、膝丈のVネックの黒いワンピースを身に纏い、滝のような黒いウェーブヘアを無造作に流している。その髪の一筋一筋から、抗いがたいオーラが放たれていた。
彼女が優雅な足取りで麻雀卓に近づくと、部屋にいた女たちは皆、呆然と見惚れていた。
その美しさに圧倒されたのだ。
天樹夢子が来たのを見て、柊木嶋は陸川北斗の腕から手を放し、立ち上がって挨拶した。「夢子」
彼女を無視し、天樹夢子は陸川北斗の腕にちらりと目をやった。柊木嶋は慌てて説明する。「さっき北斗が上がったから、嬉しくなって、それで……」
柊木嶋の言葉が終わらないうちに、天樹夢子は手を伸ばし、彼女の手首を掴んだ。「柊木嶋、次にこの人に触れたら、その手を切り落とすわよ」
「夢子、聞いて……」柊木嶋は眉を顰めた。「夢子、痛い、痛いわ」
柊木嶋の悲鳴に、陸川北斗は冷ややかに天樹夢子に視線を向けた。「そいつを離さなければ、先にお前の手を切り落とすぞ」
その隙に、柊木嶋は天樹夢子の手を振りほどき、二、三歩後ずさると、手首をさすりながら潤んだ瞳で言った。「北斗」
陸川北斗は彼女に目をやったが、その瞳に感情の波はなかった。「何を怖がっている?座れ」
白上流の隣にいた女の子が、険悪な雰囲気に気づき、興味津々で陸川北斗に尋ねた。「北斗様、この方どなたですか?」
煙が金縁眼鏡の周りから立ち上る。陸川北斗は気品ある仕草で煙草の灰を落とした。「知らん」
その言葉が落ちた瞬間、白上流たちは皆、凍りついた。
知らない?
知っているはずだ。それも、二十三年も。
今年、天樹夢子はちょうど二十三歳になる。
麻雀卓の傍らで、天樹夢子は腹立たしいやらおかしいやらだった。
それでも彼女は陸川北斗の前に歩み寄り、小声で促した。「二時半よ。もうお開きにしたら」
右手に煙草を挟んだまま、陸川北斗はあくまでも上品に言った。「自摸」
まるで、天樹夢子が空気であるかのように。
柊木嶋は気まずい雰囲気をとりなそうと割って入った。「夢子、男の人が遊ぶのは天性よ。流たちもいるんだし、そんなに心配しなくてもいいじゃない」
天樹夢子はおかしそうに言った。「じゃあ、まずあなたが結婚して、あなたの旦那を私に貸して遊ばせてくれる?」
「……」柊木嶋はぐうの音も出ずに黙り込んだ。
そう言い放つと、天樹夢子はくるりと向きを変え、白上流の前まで歩いていく。指で麻雀卓をこつこつと叩き、静かに言った。「流、あなた、立って」
白上流は顔を上げた。「夢子姉さん、あんたもやるのか?」
傍らで、天樹夢子と一緒に浮気現場を押さえに来てからずっと黙っていた笹川諭が、ふいに笑い声を上げた。「なんだよ。男だけが遊べて、女は遊んじゃいけないってのか?」
ボーイッシュなショートカットに、和柄のアロハシャツ。知らない者が見れば、彼女を男だと、天樹夢子の愛人だと勘違いするだろう。
言い終えると、彼女は天樹夢子に視線を移した。「夢子、ここのホテルの若い男はなかなかいいって話だぞ。二人ほど呼んでやろうか」
白上流が譲った椅子を引き、天樹夢子はさも何事もなかったかのように腰を下ろした。「いいわよ!」
天樹夢子がそう言った途端、陸川北斗の視線がようやく彼女の顔に注がれた。
天樹夢子はそれを完全に無視し、白上流の牌を引き継いで打った。「三筒」
ほどなくして、数人のハンサムな若者がスイートのリビングに立つと、笹川諭は一番背が高く一番格好いい少年に、天樹夢子の隣でしっかりともてなすよう命じた。
少年は任務を承ると、にこやかに天樹夢子の隣に座った。「姉さん、俺って超ラッキーなんですよ。俺が隣にいれば、絶対勝ちますって」
天樹夢子は楽しそうに笑った。「姉さんが勝ったら、大きいご祝儀をあげるわ」
果たして、数局打つと、天樹夢子の一人勝ちだった。最も意地が悪いのは、他のプレイヤーが捨てた牌では上がらず、陸川北斗が牌を出すたびに、必ず彼を振り込ませることだった。
そのため、今の陸川北斗の顔色がどうなっているかは、想像に難くない。
ちょうどその時、天樹夢子がまたツモ上がると、陸川北斗はパチンと手中の麻雀牌を卓に叩きつけた。
その顔は、周囲の空気を凍てつかせるほどに冷え切っていた。
天樹夢子は意に介さず、洗牌機に牌を押し込みながら、笑って揶揄した。「陸川様は負けず嫌いなのね!負けるのが嫌なら、家に帰って寝たらどう?」
天樹夢子に帰って寝ろと言われ、陸川北斗は笑った。「俺と寝たいだと?天樹夢子、夢を見るのも大概にしろ」
陸川北斗がそう言うと、柊木嶋は恐る恐る天樹夢子を一瞥した。今度こそ、二人は離婚するのだろうか、と。
陸川北斗の嘲笑に対し、天樹夢子は勝った金を隣の少年に手渡した。「これは姉さんからのご祝儀よ」
天樹夢子から現金を渡され、少年は興奮して受け取った。「ありがとうございます、姉さん」
部屋にいた他の女たちの目が、一瞬にして輝いた。羨ましくてたまらないといった様子だ。
天樹夢子から金を受け取った少年は、突然顔を赤らめて彼女に言った。「姉さん、俺、もっと姉さんを喜ばせられます。今夜、俺と一緒に行きませんか?」
少年がその言葉を口にした瞬間、白上流が咥えていた煙草がぽとりと床に落ちた。他の者たちも皆、顔を上げてそちらを見た。
一瞬にして、部屋の中は異様なほど静まり返り、針一本が落ちても聞こえるほどだった。
