第154章 あなたは何でもない

 天樹夢子はレコーダーのボタンを押した。早川夏の声がそこから流れ出す。

「天樹夢子弁護士、でよろしいでしょうか? どうぞ、お座りください」

 天樹夢子は、守谷誠が霧雨真音に振るった家庭内暴力の証拠を調査する過程で、早川夏に会いに行っていた。ただ、早川夏から得た情報は事件の助けにはならなかったため、法廷には提出しなかったのだ。

 天樹夢子は尋ねた。

「早川夏さん、守谷誠が既婚者であることはご存知でしたか?」

 レコーダーの中の早川夏は、笑って答えた。

「ええ、知ってましたよ」

 そして、こう続けた。

「私と守谷誠が知り合ったのは、今年の四月にジムでです。彼の方から声をかけてきた...

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