第83章 これはゴミ箱で拾った

 天樹夢子はふと振り返った。「ここにいるわ、安田定治」

 天樹夢子の声はとても優しく、まるで生まれたばかりの赤ん坊をあやすかのようだった。

 天樹夢子に安田定治と呼ばれ、少年の目はみるみる赤くなった。

 久しぶりだ! 人に名前を呼ばれるなんて、本当に久しぶりだった。母が亡くなってからというもの、誰も彼を定治とは呼ばず、怒った時にフルネームで安田定治と呼んでくれる人もいなかった。

 家族は皆、彼を「長生きできない奴」だの「死にぞこない」だのと呼んだ。家を飛び出してからは、まだマシな人間が「ガキ」と呼び、ほとんどは「親のいない奴」とか「礼儀知らず」と呼んだ。

 目を赤くしながらしばらく...

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