第29章 いい度胸

黒崎恒一は、はっきり覚えている。

かつて商売敵に追われ、命を狙われたことがある。相手は、黒崎のせいで倒産したのだと言い張っていた。だが、この業界では、勝ったほうが正義になる。そんなことは、決して珍しくなかった。

ただし、何でもかんでも他人のせいにして、恨みを正当化する人間もいる。

あのときは切迫していた。

黒崎は桜井瑞希を連れて食事に出ていた。さっきまで会食の席にいて、連中が「奥さんも連れて来い」としつこく言ったからだ。しかも、顔見知りばかりで断りづらい。

ところが帰り道で襲撃を受けた。黒崎自身も負傷したが、それでも桜井瑞希を守らなければならなかった。愛しているかどうかは関係ない。...

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