第10章

北野紗良視点

静寂を切り裂くドアベルの音は、まるで救いの響きそのものだった。

「ああ、助かった……私、なんて馬鹿なことを考えていたんだろう」

私がやろうとしていたことの現実が津波のように押し寄せ、全身が震えた。人生で誰よりも優しくしてくれた男性を、あと数秒で殺害するところだったのだ。

玄関ホールから声が聞こえてくる――榎本達也の低い声と、もう一人の男の申し訳なさそうな声だ。

「榎本奥様へ、夜分に失礼いたします。特別なお届け物です」

血の気が引いた。北野彩香宛ての荷物?こんな真夜中に?

達也が戻ってきた。手には銀色のリボンが結ばれた黒い箱を抱えている。窓から差し込む月...

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