第5章
北野紗良視点
意識が闇に飲まれる前、最後に覚えているのは、鼻をつく煙の匂いと、打ちのめされるような敗北感だった。今、優しい手が私を炎の中から引きずり出している。
「しっかりしろ、紗良。もう少しだ」
その声。低く、聞き覚えがあり、混沌を切り裂く命綱のようだった。
「榎本達也……?あなた、なの……?」
私の声はかろうじて囁きになり、喉は煙でひりついていた。
「もう安全だ。目覚めたときには、すべてが変わっている」
力強い腕が私を抱え上げ、私の墓場となるはずだった猛火から運び去っていく。
意識を失う直前に見たのは、名状しがたい何かが宿る、強烈な黒い瞳だった。
三日後、...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章

5. 第5章

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7. 第7章

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9. 第9章

10. 第10章

11. 第11章


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