第6章

北野紗良視点

北野彩香の喉元に刃が押し当てられる。温かい肌に、冷たい金属の感触。

一思いに切り裂けば、二年間の苦痛は終わりを告げる。

だが、何かが私を押しとどめた。

「北野紗良⁉」北野彩香の絶叫が、浴室の静寂を打ち破った。彼女の目が見開かれた。「あなた……死んだはずじゃ!」

「がっかりした、可愛い姉よ?」私はナイフの先で、皮膚を切り裂かない程度に、優雅な線を描くように彼女の首筋をなぞった。「死も、私から私のものを奪えはしなかった」

彼女がもがいて逃げようとしたせいで、湯が激しく跳ねた。だが、滑りやすいバスタブからは逃げられない。完璧に取り繕っていたその冷静さは、高価な磁...

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