第56章

 そう思い至って、藤崎弥生は思わず口にした。

「桐生椿。お前、レースだけじゃなくて……格闘もできるのか?」

 桐生椿は「カリッ」とポテトチップスを噛み砕き、無意識に指先をぺろりと舐める。

 その仕草が妙に愛らしくて、藤崎弥生の胸がどくんと跳ねた。

「まあ、ちょっとだけ」

 すると横で聞いていた桐生美月が、眉をひそめて首をかしげる。

「レースって、何の話?」

 藤崎弥生は自分の失言に気づき、背筋が冷えた。危うく桐生椿の正体を漏らすところだった。

「あ、いや。レースって言っても、ミニカーの方だよ。俺と桐生椿、模型のレースが好きでさ」

 桐生美月は露骨に嫌そうな目で桐生椿を見る。...

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