第97章

桐生椿は深く息を吸い込み、くるりと振り返った瞬間には、従順でおしとやかな令嬢の顔に切り替えていた。

「九条蓮お兄さま、助けてくださってありがとうございます。お礼だけじゃ足りないので……よかったら、私がご飯をご馳走します!」

その「お兄さま」が、やけに甘く柔らかい。

二十年以上独り身の九条蓮の胸の奥が、びくりと震えた。

全身の筋肉が、強敵と対峙したときみたいに張り詰める。

「ぷっ――」

ちょうど立ち去ろうとしていた部下二人が、その呼び方を聞いた途端、堪えきれずに吹き出した。

お兄さま、って……なんだあの破壊力。

まさか、あの戦神が女の子にそんなふうに呼ばれる日が来るとは。

九...

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