第1章

 五年前、私がクロスボウボルトを身代わりに受けた男――ルシアン・ヴェールが、私に隠れて二重生活を送っていたのだと知った。

 いつ意識を失ったのか、正確にはわからない。資料室の床がやけに速く迫ってきたのは覚えている。それから先は、何もない。

 気がついたときには、もう彼がいた。

 彼は専属医の診察室の端で電話をしていて、その声には、私が彼からほとんど聞いたことのない棘があった。儀式の材料がどうとか、こんなことをまた許したのは誰だとか。専属医は辛抱強くそれをやり過ごしていた。権力のある男というのは、こうして待たせるものだと、その待たせ方で学ぶ。

 一瞬だけ、信じかけた。彼が本当に、私のためにあそこまで怒っているのだと。

 でも、結晶のことを思い出してしまう。新しく増えていた銀の枝が二本。そのうち一本に刻まれていた名前。

 専属医の説明が半分ほど進んだところで、ルシアンは通話を切り、部屋を横切ってこちらへ来た。

「協定の連中か?」低く、締めつけるような声だった。「誰かが君の研究資料に手を出したのか?」

「誰も何もいじってない。ただ、私が無茶をしただけ」

 彼は信じられないという目で私を見て、それから専属医を見た。どうせなら誰かを犯人にしてしまうか、決めかねているみたいに。

「失血です」専属医がきっぱりと言う。「この半年で三度目。回復するまで儀式は禁止です。最低でも二週間は」

 ルシアンは椅子を引き寄せて腰を下ろした。そして手を伸ばし、私の頬に掌を当てる――五年前と同じ角度、同じ重み。初めて「変わった」私が目を覚ました夜、まだ自分の頭すら支え方がわからなかった私を、彼が支えてくれた時と同じだった。彼が今でも同じやり方をしていると、自分で知っているのだろうか。

「どうした?」彼が言う。「ほかにも何かあるな」

「疲れてるだけ」

 彼は一秒ほど私の視線を受け止め、それから身を乗り出し、私の額に口づけた。

 その瞬間、気づいた。

 杉と銅――それは間違いなく「彼そのもの」の匂い。その下に、冷たいものが混じっている。古い気配。純血種の存在は、肌にも布にも、ほかの何とも違う残り方をする――花とは関係ないのに花のようで、何を探すべきか知るまでは正体が掴めない。私はセラフィーヌ・モローと同じ部屋に三度いたことがある。あの匂いを知っていた。

 さらにその下、危うく見落とすほど微かな――甘くて、温かくて、乳のような匂い。

 乳児の血の匂いは別物だ。最初に叩き込まれることのひとつ。

 私は彼を押し返し、「少しだけ一人にして」と何か言い、吐き気を堪えながらどうにか浴室へたどり着いた。間に合わず、吐いた。

 彼はついてきた。両手で私の髪をまとめ上げ、何も言わず、ただそこにいた。床のタイルに膝をつき、たぶん一般人の家賃より高いようなコートを着たまま。彼は昔から汚れものが嫌いだった。病気の気配にはもっと弱かった。なのに、診療所のトイレの床で膝をつきながら、どちらにも構わない顔をしている。

 言いかけた。口まで出かかっていた――妊娠してる、七週、昨日わかったばかり――たぶん、もし言っていたら、全部違っていたのかもしれない。

 そのとき、彼の電話が鳴った。

 画面を見た彼の表情に、何かが走って、消えた。「一族の用事だ」彼は言った。「すぐ戻る」

 戻ってこなかった。二十分経っても。

 代わりに来たのは、幻視だった。招かれてもいないのに頭の中へ押し入ってくる映像。記憶みたいに鮮明で、けれど私のものじゃない。長く血を分け合った二人の間には、そういうことが起こる。電話もなしに、予告もなしに、結び目を通して送りつけられる。

 柔らかな光。淡い色の乳児室。ルシアンがベビーベッドに身をかがめ、赤ちゃんの額に口づけている。せかせかしたところがない。前にもそうしたことがあるみたいに。

 背景にセラフィーヌ。彼の腕に手を置き、見つめている。

 そして最後に、糸のように一本の文が縫い込まれていた。――必要とされるとき、彼は動きが早い。

 手の震えが収まるまで、私は浴室の床に座り続けた。それからミラに電話をかけた。

「二日」私は言った。「二日で、私は死んだことにしてほしい」

 沈黙が一拍。やがて慎重に、彼女が言った。「私も……コービンに嘘をつかれてた。メッセージを見つけたの」声は制御されていた。でも、ぎりぎりだった。「もうここにいられない、ヴェラ。これ以上は」

 ミラは間違っていた。コービンは八か月かけて指輪のために金を貯め、彼女の古い狩人の徽章を台座に加工させていた。彼女がかつて何者だったか、そのすべてを受け入れていると伝えたかったのだ。私はその時まだ知らなかった。

「わかった」私は言った。「一緒に行こう」

 その夜、家に戻ると、家は空っぽだった。「遅くなる」という短いメッセージだけが残っていた。「片づけてる」。

 私は真っ直ぐ資料室へ行った。棚には四年分のノート。余白には彼の筆跡が入り込んでいる。私の立っていた場所からは、共同作業に見えていた時間。私は一冊ずつ引き抜いて、破った。何か感じるはずだと思っていた。でも、何もなかった。

 初めて一族の集まりに出たときのドレスは、長く見ないようにして袋へ押し込んだ。

 袋の持ち手を結ぶとき、指輪が光を拾った。

 外さなかった。計画には必要だったから。

 台所のカウンターに置いたスマホが光った。

 ミラからのメッセージ。「準備できた。四十八時間」

 四十八時間後、ヴェラ・クロス=ヴェールは死んだことになる。

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