第3章
あの夜は一睡もできなかった。
暗闇の中で目を見開いたまま横になり、反撃の一手一手を、息が詰まるほど細かく組み立てていった。
太陽が地平線を割った瞬間、私は車を飛ばして農場へ向かった。
父は東側の畑にいた。届いたばかりの季節の種の袋を次々と破り、トラクターに積み込む準備をしているところだった。
私が土の上をまっすぐ歩いていくと、父は手を止め、訳が分からないという顔でこちらを見た。
「桜子?」父は手の土埃を払って言った。
「こんな夜明けに、どうしたんだ?」
「積み込みを止めて、お父さん」私は一切ふざけない声で言った。
「その種は一粒たりとも播かないで」
父は眉をひそめ、巨大なパレットを指さした。
「何を言ってるんだ。理沙の実の父親が、まとめ買いで何百万も安くしてくれたんだぞ」
その男の名を聞いた途端、胃の奥がきりりとねじれた。
前の人生で、父は農場の利益で一生私を支えると誓ってくれた。――そして、まさにこのロットを播いた。
理沙の実の父親は、最初から完全に死んだ種をわざと仕入れていたのだ。差額の大金を懐に入れ、裏の賭博で作った借金の穴埋めに回していた。
結果として作物は全滅し、土は取り返しのつかないほど傷んだ。さらに彼は破産の噂を焚きつけ、獰猛な貸金業者を門前まで引き寄せた。
父がならず者たちに追い詰められ、最後には運営棟の屋上から身を投げた光景を、私ははっきり覚えている。
残酷な記憶を喉の奥へ押し込み、私は父の目をまっすぐ見た。
「業者への支払いは今すぐ凍結して」私は言い切った。
「外部の独立検査機関を入れて、この出荷分を全部検査する」
父は口を開き、購入を正当化しようとした。継娘の家族を、まだ盲目的に信じているのだ。
私は一歩も譲らなかった。父の腕をつかみ、そのまま本部事務所へ引きずっていった。
私たちは鍵をかけて閉じこもり、夜通しで調達の請求書を一枚残らず突き合わせた。
三日後、公式の検査結果が父の机に届いた。
報告書は、ロット全体が完全に不稔――発芽能力ゼロだと証明していた。
父の額に冷や汗がにじんだ。父は即座に預託口座を凍結し、静かに警察へ連絡して詐欺被害を届け出た。
農場の安全がようやく確保され、私は家へ帰って眠った。
目が覚めると、携帯は不在着信の嵐だった。翔太は受信箱に、高級ヴィラの物件リンクと新車の高級スポーツカーの情報を山ほど投げ込んできていた。
「土地の契約、もう通った? 金が入った瞬間に教えて」そんな文面が届いている。
そして本題が続く。
「この高級スポーツカー、三十万ドルなんだ。名義は俺にするよ。君が法的責任を負わなくて済むだろ?」
私は画面に向かって、本当に声を出して笑ってしまった。
「最低賃金でしょ」私は打ち返した。
「ガソリン代だって払えないよ」
返事は即座で、厚かましさに限界がなかった。
「でも、今は君がいる! 相続を現金化したら、こんなの俺たちにとって端金だろ」
私は間髪入れずに返した。
「じゃあ、あなたの母親に家を買ってもらえば?」
「母さんは俺を育てるために全部犠牲にしたんだ!」翔太は憤慨したように返してきた。
「自分の母親にたかるなんてできるか!」
それでもすぐに不動産の話へ戻る。
「豪邸は俺の名義にしよう。面倒な決済書類は全部俺がやるから、君は楽してればいい」
妻から搾り取るのが、こいつにとっての『道徳』らしい。
その後数日、翔太は執拗に私の携帯を鳴らし続けた。許可も取らず、私の名義で内見予約まで入れていた。
留守電には泣き言が残っていた。
「新しい生活を一緒に始めたいだけなんだ。お金を個人口座に移してよ。女の子には経済的自立が必要だろ!」
前の人生では、私の自尊心の欠片もない心が、この操作を愛だと勘違いしていた。けれど今は、みじめな罠が透けて見える。
もう、合わせてやるのはやめた。
私は農場の銀行システムにログインし、翔太の配偶者用クレジットカードを永久に解約した。
電話には出ず、代わりにトレーニング器具を注文して毎日鍛え、体調を立て直した。農場のオンライン広報も完全に私が握った。
力を、少しずつ取り戻していった。
その夜遅く、翔太からの着信が連打のように続いた。
私は落ち着いて拒否し、通知を切った。
夜明け、玄関の扉が乱暴に叩きつけられた。
開けると、理沙が怒りで震えるように立っていた。実の父親の資産が凍結され、盗んだ金の流れが突然断たれたのだ。
「なんで翔太のカード止めたのよ!?」理沙が唾を飛ばすように吐き捨てた。
私はドア枠にもたれ、腕を組んだ。
「で、どうしてあなたが、私の夫のカードが弾かれたって知ってるの?」
理沙の喉がひゅっと詰まった。失言したと気づいたのが、その瞬間だった。
「か……彼の家族に緊急事態があって!」理沙は防御的にどもった。
「あなたを探して、あちこち――!」
私は眉を上げた。
「あなたの親は今、連邦レベルの詐欺で告発されかけてるのに、わざわざここまで来て泣きつくのが、うちの夫の財布の話?」
理沙は口を開いたが、頭の中が完全に停止したようだった。
言い訳を捻り出す前に、理沙のスマホが鳴り出した。画面には、翔太の名前がくっきり表示されている。
理沙は青ざめ、必死に止めようとした。私はその手首をつかみ、通話を受け、スピーカーを押した。
翔太の切羽詰まった醜い嗚咽が、私たちの間の静寂を一瞬で引き裂いた。
「理沙! 見つけたのか!?」スピーカー越しに怒鳴り声が響く。正気を失ったような焦りで、声が裂けていた。
「葵がもう駄目なんだ! 体が……肉が、本当に腐っていってる!」
「医者が言ってる! 今日中に桜子の金がなきゃ、もたないって!」
