第1章
目を開けた瞬間、私は亮介を殺そうと思った。
今度は自分じゃない――あの男を。私を十年も監禁し、死なせてくれと懇願するまで拷問した、あのサイコパスを。今回は、あいつの思い通りにはさせない。
鏡に映る自分を見つめる。再び二十二歳になった私――滑らかな肌、傷跡一つない顔。痛みが刻み込んだ皺も、どこにもない。
凍えるような地下室、鎖、私が壊れるまで見つめていた亮介の狂った目……そういった記憶が、一気によみがえってくる。
「今度こそは」私は鏡の中の自分に囁いた。
何をすべきかは、はっきりとわかっていた。森川隼人――前の人生で、亮介を殺しかけた唯一の男。失敗に終わったけれど、あの化け物を怯えさせたのは、後にも先にも彼だけだった。
今回は、私が先に彼を見つけ出す。
南浜市の南部は、いつも車の排気ガスと産業廃棄物の匂いがした。奥へ進むほど、その空気は荒んでいく。私は記憶を頼りに、あの古びた自動車修理工場へとまっすぐ向かった。
半ブロック先から、機械の作動音と金属がぶつかる音が聞こえてくる。深呼吸を一つして、錆びついたドアを押し開けた。
中は混沌としていた。車の部品がそこら中に散乱し、空気はモーターオイルの匂いでむせ返るようだ。何人かの男たちが作業していたが、誰も私には気づかない。
そして、彼を見つけた。
隼人は壊れたトヨタの車に身をかがめていて、広い背中と横顔だけが見える。部屋の向こう側にいるのに、彼からはどこか危険な雰囲気がした――常に喧嘩の準備ができているような。
この男が、やがて裏社会全体を恐怖に陥れる存在になることを、私は前の人生のニュースで知っていた。
『これしかない。成功させないと』
私の視線に気づいたのだろう、隼人はエンジンから顔を上げ、こちらを向いた。息をするのも忘れそうになった。
暗く鋭い、すべてを見透かすような瞳……。テレビでしか見たことがなかった。間近で見ると、とんでもなく威圧感があった。
「迷子か?」彼の声は荒々しく、明らかに訝しんでいる。
心臓が破裂しそうなのを抑え、私は平静を装った。「あなたを探してる。森川隼人」
彼はレンチを置き、汚れた布を掴んだ。私から一切目を離さず、ゆっくりと手を拭いている。まるで獲物を狙う獣に見つめられているような気分だった。
「俺を知ってんのか?」彼は笑ったが、友好的なものではなかった。「嬢ちゃん、お前さんが来るような場所じゃねえぞ、ここは」
今しかない。私は息を吸い込み、人生を救うか、あるいは私を完全な狂人に見せるかのどちらかになる言葉を口にした。
「私と結婚してください。月三十万、払います」
すべてが静まり返った。
機械はまだ動いているのに、世界そのものが止まってしまったかのようだった。隼人は布を取り落とし、まるで宇宙人とでも遭遇したかのように、私を凝視した。
「……今、なんて言った?」
「結婚してください」足が震えていたが、声はなんとか平静を保とうとした。「月三十万。現金で」
隼人は、永遠とも思える時間、私を見つめていた。やがて彼は笑い出した――本気で。壁に反響する、どこか不気味な笑い声だった。
「お前、頭イカれてんのか?」彼は涙目になるほど笑っていた。「どっかから逃げてきたのか?」
顔が熱くなるのを感じたが、私は引かなかった。「本気です。婚姻届なら、今日にでも出せます」
笑い声が、ぴたりと止んだ。
隼人は私を頭のてっぺんからつま先まで、じろじろと値踏みするように見た。その視線は、かつての亮介のそれを思い出させ、私は思わず身震いした。
「裏があるんだろ?」隼人は一歩近づき、声に険が帯びる。「何のため?この顔か?それとも、夜の方の評判でも聞いたか?」
最後の言葉は、私の耳元で囁かれた。彼の温かい息が肌にかかり、全身がこわばる。
「あ、あなた……顔、いいんですか?」私はどもってしまった。
その反応は彼の意表を突いたらしく、隼人は一歩下がってまた笑い出した。
「顔がいい?それだけか?」彼は何かを考え込んでいるようだった。「嬢ちゃん、俺が誰だか、本当にわかってんのか?」
もちろん、知っている。前の人生で、あなたは亮介に悪夢を見せた男。この街で最も危険な男。そして、私が生き延びるための、唯一の希望。
でも、私が口にしたのはこれだけだった。「あなたが森川隼人で、車の修理をしていることは知っています」
「それだけ?」彼はどこか失望したように見えた。「どこの誰とも知れない男と結婚したいってのか?」
「ただ……」私は唇を噛んだ。「あなたのこと、いい人だと思って」
隼人は再び、私の心の中を読もうとするかのように、鋭い視線を向けてきた。やがて彼はにやりと笑った――それは、危険注意と書いておきたくなるような笑顔だった。
「わかった」と彼は言った。「ああ、いいぜ。タダで嫁が手に入って、月三十万。もっとマシな取引もしてきたが、まあ悪くねえ」
信じられなかった。「はい、ってことですか?」
「ああ、なんでダメなんだ?」隼人は肩をすくめた。「可愛い女に、楽な金。俺にとっちゃ好都合だ」
彼はジャケットを掴んだ。「市役所が閉まる前に行くぞ。今日のうちに済ませちまえば、お前もビビって逃げ出せねえだろ」
こんなにあっさりと?こんなに簡単でいいの?
頭が混乱したまま、私は彼のオンボロのピックアップトラックまでついていった。亮介から私を守ってくれるかもしれない唯一の男と、自分自身を結びつけた――そうした自分を、心のどこかで信じられずにいた。もう一方では、とんでもない過ちを犯したのではないかと危惧していた。
トラックの中で、運転する隼人を盗み見る。力強い手、鋭い頬骨、そして……ええ、彼は本当に顔が良かった。
でも、気がかりだったのは、さっきの彼の視線だ。あれは、普通の整備士が人に向ける目つきじゃない。あまりにも多くのことを見、多くのことをしてきた人間の、警戒心に満ちた目だった。
市役所はほとんど人がおらず、結婚の手続きは驚くほど簡単だった。係員から婚姻届の受理証明書を手渡されたとき、私の手は震えていた。
「おめでとうございます」彼女は笑顔で言った。
外に出ると、太陽が沈みかけ、街灯がちらほらと点き始めていた。まだプリンターの熱が残る証明書を見つめながら、これが現実だとは思えなかった。
「さて、と」隼人はタバコに火をつけた。「これで俺たちは夫婦ってわけだ」
私は頷き、手の中の紙に目を落とした。この薄っぺらい紙一枚が、かつて亮介が私にしてきたあらゆることから、私を守る盾になるはずだった。
隼人は煙を吐き出した。暮れゆく光の中で、彼の表情は読み取りにくい。彼が何を考えているのかは全くわからなかったが、思い出せないほど長い間感じていなかった、希望のようなものを、初めて感じていた。
本当に、これでうまくいくのだろうか?婚姻届一枚で、前の人生を破壊したあの化け物から、本当に私を守れるのだろうか?記憶はまだそこにある――痛み、恐怖、頭の中で響く亮介の声。
でも、隼人の隣に座っていると、今まで感じたことのない何かを感じた。
『これは、私の二度目のチャンス。隼人は危険かもしれないけど、少なくとも亮介じゃない。今度こそ、私は安全でいられるかもしれない。今度こそ、私は反撃できるかもしれない』
