第3章

彼の手つきは不器用で、洗練さなんて欠片もなかった。でも、ものすごく丁寧だった。布が肌を掠めるたび、今まで感じたことのない温もりが全身に広がっていく。

前の人生の亮介? あの人はこんなこと、気にもしなかった。与えることなく、奪うばかりだった。

涙がこみ上げてきて、隠そうとしたけれど、隼人には気づかれてしまった。

「痛かったか?」彼は眉をひそめた。「悪い、もっと優しくすべきだったな」

「ううん」私は首を横に振った。声が詰まる。「ただ……こんなに思慮深いなんて、思わなかったから」

隼人は動きを止め、その表情は読み取れなかった。「言ったろ、明花。俺はろくな男じゃないぜ。期待しすぎるなよ」

それでも彼は身を乗り出すと、羽のように軽いキスを私の額に落とした。

翌朝、卵を焼く匂いで目が覚めた。隼人はもう起きていて、小さなキッチンで何かごそごそとやっている。私が身じろぎするのに気づくと、彼は振り返ってコーヒーの入ったマグカップを差し出した。

「どうして私がコーヒーを飲むってわかったの?」

「勘だよ」彼は肩をすくめた。「お前、なんとなくコーヒー好きそうだったからな」

朝食は目玉焼きと食パンとコーヒーだけのシンプルなものだったけれど、今までで一番美味しい食事のように感じられた。たぶん、誰かに作ってもらうんじゃなくて、誰かが私のために作ってくれたのが、初めてだったからかもしれない。

「職場まで送ってやる」隼人は鍵を掴みながら言った。「土地勘もつけたいしな」

コーヒーショップでは、同僚たちがカウンターの向こうでひそひそと噂話をしていた。窓越しに、オンボロのトラックに乗った隼人の姿を見つけた彼女たちの顔が、すべてを物語っていた。

「明花ちゃん、なんであんな男と一緒にいるの?」

「いかにもガラが悪そう……」

「どうしてああいう人と?」

聞こえないふりをして、私は仕事に集中した。でも心の中では、すべてを疑い始めていた――私の判断は、正しかったんだろうか?

仕事が終わると、隼人は時間ぴったりに待っていてくれた。でも今日の彼はどこか違って見えた。瞳に宿る、謎の輝き。

「いいニュースがある」エンジンをかけながら彼が言った。「トラックを売って、新しい住処を確保した」

「え?」私は彼を見つめた。「どうして? プレハブ小屋で十分なのに」

「夫婦二人には狭すぎるだろ」隼人はにやりと笑った。「お前には、もう少しまともな場所が必要だと思ったんだ」

二十分後、私たちはごく普通のアパートの前に車を停めた。豪華ではないけれど、プレハブ小屋とは比べ物にならないくらい良い場所だった。隼人に導かれて三階まで上がると、彼がドアの鍵を開けた。中に足を踏み入れた私は、凍りついた。

そこはこぢんまりとしているけれど、清潔で居心地の良さそうな、ワンルームの部屋だった。何より私を驚かせたのは、カーテンだった。深い海の青。まさしく、私の大好きな色。

「あなた……どうして私が青が好きだって……?」胸を高鳴らせながら、私は彼に振り返った。

隼人はドアの枠に寄りかかり、少し気まずそうな顔をしていた。「昨日、市役所で言ってたろ。青いポスターを見つめて、きれいだって」

記憶をたどる――そういえば、海をテーマにした広告をちらりと見て、何気なく呟いたような……。

覚えててくれたんだ?

「隼人……」声が震え、目の奥がツンと痛んだ。

前の人生では、誰も私の好きなものになんて注意を払ってくれなかった。亮介はただ、彼の世界に私を合わせさせただけだった。彼の服、彼の部屋、彼のルールに。

でも隼人は、まだ出会って一日しか経っていないこの人は、あの些細な一言を拾い上げて、行動してくれた。

「大したことじゃない」彼はそう呟くと、テーブルの上の何かをいじりながら顔をそむけた。「ただ……お前の家になるんだから、お前の好きなものがあった方がいいと思っただけだ」

その瞬間、涙が溢れ出した。

これが、愛されるっていうことなんだ――そう、悟った。

「ありがとう、隼人」私は彼の背後から、その腰に腕を回した。「私を……必要としてくれて、ありがとう」

隼人は一瞬体をこわばらせたが、やがて振り返ると、あの射抜くような瞳で私を見つめた。

「お前は必要とされてる、明花」彼はまるで私がガラス細工であるかのように、優しい親指で私の涙を拭った。「誰にもそれを疑わせちゃいけない」

そよ風が青いカーテンを揺らす。私はこの粗野で優しい男にしがみつきながら、今まで感じたことのない安らぎに包まれていた。

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