第2章

瑠美視点

「あ、来た!」私が入っていくなり真樹が声を上げた。「ちょうどいいタイミングだ。サイコロやってるぞ!」

みんな飲み物を片手にテーブルを囲んでいて、雰囲気は明るく和やかだった。牧人は一方の端に座り、ごく普通に見える。もう一方の端には梨乃が座っていて、こちらも普通に見えたが、口紅を塗り直しているのが目についた。

「よし、牧人!」誰かが叫んだ。「いつかは運も向いてくるって!」

私は空いている席に滑り込んだ。牧人がサイコロのカップを振るのを眺める。カラカラという音がやけに大きく響くように感じた。彼がテーブルにカップを叩きつけ、持ち上げる。

「四!」みんなががっかりした声を上げた。

これが、あの二人のお決まり。もう何度も見てきた光景だ。牧人と梨乃は、いつもこうやってお互いに賭けをして、ゲームをしている。私はただの兄妹のじゃれ合いだと思ってた。それを気にする自分が神経質なだけだって。

「私の番ね」梨乃が甘い声で言った。彼女はサイコロを一瞥しただけで、すぐに転がした。「六!」

テーブルは歓声と呻き声で沸いた。私はまるで、すごく遠くからその光景を眺めているような気分だった。

「それで、今回の賞品は何?」紗良がにやにやしながら尋ねた。

梨乃は椅子に寄りかかり、その視線を牧人に固定した。

「今回はね」彼女はゆっくりと言った。「結婚式を、六ヶ月延期する」

部屋は抗議の声で爆発したが、私の耳にはほとんど届かなかった。耳鳴りがしている。

結婚式。私たちの結婚式。四年前、婚約してすぐに行われるはずだった結婚式。でも、いつも何かしらの理由があった。百万の小さな理由が積み重なって、四年間も待つことになった。

文句ひとつ言わない、辛抱強い婚約者でいた四年間。

「今、本気で言ってるのか?」真樹は思わず立ち上がっていた。「牧人、お前、これ本気じゃないよな!」

「完全に狂ってる」紗良も続けた。「これ、いつから続いてるの? 全部合わせたら、もう五年も延期してるじゃない!」

みんなの視線が牧人に集まる。彼はただそこに座って、梨乃を見つめていた。

私を選んで。お願い......

「牧人?」自分の声が彼の名前を呼ぶのが聞こえた。

彼はその時、私を見た。その瞳には、昼間のようにくっきりと罪悪感が浮かんでいた。

「わかった」彼は静かに言った。「六ヶ月だ」

部屋は完全に静まり返った。

やっぱり。やっぱりまた彼女を選んだ。いつだって、彼は彼女を選んできた。

「瑠美」紗良がテーブル越しに私の手を掴もうとしてきた。「何か言ってよ。こんなの絶対におかしい。あなたが受け入れる必要なんて......」

私は笑い始めた。その声は乾いていて、苦々しかった。私を見るみんなの表情が変わっていくのがわかった。

「何がおかしいの?」梨乃が尋ねた。

私は牧人を、まっすぐに彼を見つめた。そして、自分の中の何かがぷつりと切れるのを感じた。四年間、もしかしたらそれ以上、ずっと張り詰めていた何かが、突然解けてしまった。

「延期すればいい」私の声は冷たく、はっきりしていた。「結婚しようがしまいが、もうどうでもいい」

みんなが私を凝視した。牧人の顔が青ざめる。

「瑠美……」

「疲れたの」私は立ち上がって言った。「もう寝るわ。みんなは楽しんで」

私は振り返らずに部屋を出た。

客間は、窓から差し込む月明かり以外は真っ暗だった。私はドレスのままベッドの端に腰掛け、スマートフォンを取り出した。

フォトギャラリーの、ほとんど開くことのないフォルダの奥深くに、大学の卒業式で撮った両親の写真があった。青いドレスを着た母。その肩に腕を回す父。二人とも、誇らしげに満面の笑みを浮かべている。

「愛してるわ、瑠美」あの日、母は言った。「本当に自慢の娘よ」

それは、事故の三ヶ月前のことだった。

「何があったのか、俺が突き止める手伝いをする」葬儀で牧人はそう約束してくれた。「約束するよ、瑠美。二人のために、必ず正義を勝ち取る」

でも、何もわからなかった。どの調査員も手ぶらで戻ってきた。どの手がかりも行き詰まった。そして牧人はただ、「時間をくれ。こういうのは時間がかかるんだ」と言い続けるだけだった。

四年間。彼が私たちの結婚を延期し続けてきたのと同じ、四年間。

四年前、彼が「軽度の事故」に遭ったとされる時から。

スマートフォンの画面に映る両親の顔を指でなぞる。涙が頬を滑り落ちた。

「お母さん、お父さん」私は囁いた。「もし、私がずっと間違っていたとしたら? 世界で一番信頼していた人、私が泣いている間ずっと抱きしめてくれた人、真実を見つける手伝いをすると約束してくれた人が……もし、その人が、あなたたちが死んだ原因だとしたら?」

「四年前……事故……私を追いかけて……」

四年前。全く同じ時期。全く同じ種類の事故。

牧人は梨乃を追いかけて車で事故を起こした。そして両親は事故で死んだ。そして私も、別の事故で記憶を失った。

三つの別々の交通事故が、すべて同じ時期に、すべて同じ人間関係の中で起きている。

また手が震え始めた。私はスマートフォンを置いた。

もし、それが三つの別々の事故じゃなかったとしたら? もし、それがすべて同じ夜の出来事だったとしたら? もし、牧人がそこにいたとしたら? もし、彼が何が起こったかを見ていて、この四年間ずっと知っていたとしたら? 彼がそこにいたから何が起きたか正確に知りながら、私を「調査」するのを手伝うふりをしていたとしたら?

もし、私がそこにいたのが、彼のせいだったとしたら?

その考えに吐き気を催した。でも、もうその考えを止めることはできなかった。

知らなくてはならない。証拠が必要。私が思い出せないあの夜、本当に何が起こったのかを突き止めなければ。

そして、どこから探し始めるべきかは、はっきりとわかっていた。私が結婚するはずだった男の人生の中から。私が彼を完全に信頼しているから、決して探したりしないだろうと彼が思っている、あらゆる場所を。

ごめんなさい、お母さん、お父さん。もっと早く、気づくべきだった。

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