第132章 君が欲しい

雲城の、あの煙と欲望にまみれた権力と欲望の舞台から逃げること――それは、たぶん正しい選択だった。

「……いいよ」

若林星奈は迷いなくうなずく。

「あなたと行く」

十数時間のフライトののち、機体は滑るようにカンクン国際空港へ着陸した。

熱帯の風が、潮の匂いを含んだまま頬を撫でる。

若林星奈はワインレッドのベルベットのキャミソールドレスに着替え、氷入りのテキーラを指先でつまむように持った。海の見える別荘のバルコニー、手すりにもたれて気だるく息を吐く。

鳴り止まない催促の電話もない。雲城の、胸糞の悪い駆け引きもない。

数か月張り詰めていた神経が、ようやく一瞬だけほどけた。

背後で...

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