第133章 暇はない彼の芝居に付き合う

雲城空港。夜がまだ明けきらない頃だった。

若林星奈がスーツケースを押してVIP通路を抜ける。水谷瑞貴は片手にスーツの上着を提げ、無言でその半歩後ろを歩いていた。

ロビーの出迎えはまばらだ。星奈は一度だけ視線を走らせ、灰色のスーツを着た男の背中で止める。

千葉大翔――西野直人の助手。

西野本人の姿はない。だが千葉がいるなら、近くにいる。

「こっち」

星奈は声を落とし、水谷の腕を軽く引いて、脇のカフェへ滑り込んだ。

水谷は眉をわずかに上げただけで何も言わない。彼女の後ろについてカフェの裏口を抜け、そのまま駐車場へ下りる。

黒いメルセデスが一台、すでに待機していた。

車内に入って...

ログインして続きを読む