第142章 空振りした

神田健斗は道路の向こうにいる二人を見つめた。若林星奈の顔に浮かぶ、あまりにも無防備な――肩の力が抜けきった笑み。

「……いまの彼女、すごく自然に笑ってる」

神田健斗の声は低く、ほとんど息に紛れた。

「前だって笑ってはいた。でも、どこか張りつめてたんだ。あの男のそばにいるときだけ……完全にほどける」

秘書が小さく息を吐く。

「ですが、社長……」

「俺は、彼女が幸せならそれでいい」

神田健斗は視線を引きはがし、車のドアを開けて後部座席へ滑り込んだ。

「行こう。会社へ」

車はゆっくりと動き出す。神田健斗は背もたれに身を預け、目を閉じた。

――若林星奈の心の中には、無理に踏み込め...

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