第156章 キス

若林星奈はスマホをデスクへ放り投げた。さっきの通話の余韻で、胸がまだ激しく上下している。

深呼吸を何度も繰り返し、ようやく胃の奥からせり上がる吐き気を押し込めた。

西野直人は今や、どぶ溝で腐りきった死体みたいなものだ。悪臭を撒き散らすだけで、何ひとつできない。

時計に目をやる。もうすぐ帰る時間だった。

鞄を手に取り、オフィスのドアを押して外へ出る。

ビルのガラスの回転扉を抜けた瞬間、安い煙草と酸っぱい体臭が混じった風が、ぶわっと顔にぶつかった。

植え込みの陰から黒い影が飛び出し、真正面に立ちはだかる。

西野直人だった。

スーツはひどく皺が寄り、脂の浮いた髪が頭皮にべったり貼り...

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