第61章 男

若林星奈はカーテンを「シャッ」と引き、ぴたりと閉め切った。

「なに? 上がってきて浮気現場でも押さえられるのが怖い?」

水谷瑞貴はソファに凭れたまま、紙みたいに青い顔をしている。腹の傷口はまだじわじわと血を滲ませ、黒いシャツの一部が赤く染まっていた。体勢を変えた拍子に傷が引きつり、眉間がぎゅっと寄る。

張り詰めた若林星奈の横顔を見て、水谷瑞貴の胸に、いやらしい愉しみが芽を出す。

若林星奈は冷ややかに一瞥した。

「水谷瑞貴。口を慎みなさい」

「先輩、それはさすがに傷つくな」

水谷瑞貴は低く笑い、痛みを噛み殺すように息を吐く。

「俺がこんなザマなのは、先輩の周りにいる内通者を炙り...

ログインして続きを読む