第86章 南側

若林星奈は、俯せに跪く女を見下ろした。

三年前。

精神科の病院でベッドに縛りつけられ、鎮静剤を打たれたあのとき――山川心菜はどんな顔をしていた?

笑っていた。

その笑みを、星奈は三年間、忘れなかった。

「山川心菜。跪く相手、間違えてる」

若林星奈は一歩退き、掴まれていたスカートの裾をするりと引き抜く。

「親子鑑定を偽造して、私の息子を“雑種”扱いして屋根裏に放り込んで、何か月も飢えさせた」

「精神鑑定も偽造して、私は鉄格子の向こうで三年」

「父を殺した。誘拐まで仕組んで、私を“商品”みたいに売り飛ばそうとした」

「それで今さら、ここで跪いて『間違ってました』?」

若林星...

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