第99章 ポイズン・バレー

「ポイズン・バレー?」

若林星奈がその言葉を耳にしたとき、彼女は庭で息子の小さな靴下を干していた。

風に煽られ、片方の靴下がぽとりと地面へ落ちる。屈んで拾い上げた瞬間、腰がぎくりと鳴って、そのまま伸びなくなった。

背後に立つ水谷瑞貴が、ついさっき届いた情報をもう一度繰り返す。

「お前の母親、三か月前に誰かに連れていかれた。ポイズン・バレーへ」

若林星奈は靴下を洗濯ばさみで挟み直し、ゆっくり振り向いた。

「そこ、どこ」

「ここから二百キロ以上先。国境線の上だ」水谷瑞貴は回りくどい前置きをしない。「政府の手が届かない。三つの武装勢力の境界で、誰の縄張りでもあって、誰の縄張りでもない...

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