チャプター 47

イライジャ・ヴォーン

俺は振り返ることなく、廊下を駆け抜けた。

呼吸は乱れ、心臓の鼓動が耳元でガンガンと鳴り響き、周囲の音をすべてかき消していく。

足は震え、全身が粘り気のある嫌悪感に覆われているようだった。

嫌悪感が酸のように体内で焼けついた。

俺は手の甲で唇を何度もこすり、あの忌まわしい感触を消し去ろうとした。

無理やりされたキスの記憶に、胃がひっくり返りそうになる。

もしとっさに反応していなければ……。

もし逃げ出せていなければ……。

考えるだけで吐き気がした。

背筋を悪寒が走る。まるでまだあの手が体に触れているようで、地面に縫い付けられるような窒息感を覚えた。

何...

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