チャプター 66

イライジャ・ヴォーン。

日はすでに沈んでいたが、独房に戻る気にはなれなかった。ひんやりとした夜気、穏やかな微風、そしてダンテの膝に抱かれている感触――それらが、この場所では得がたい安らぎを与えてくれていた。

急ぐ必要はない。ただ二人で共有する静寂なひととき。

だが突然、彼は立ち上がり、俺をコンクリートのベンチに優しく座らせた。

「ここで待ってろ、ウサギ。すぐ戻る」

低く響く声。額に柔らかなキスを落とし、彼は中庭を出て行った。

暗い廊下の奥へと消えていく彼のシルエットを見つめていると、胸の奥に奇妙な不安が広がっていった。

目を閉じて深く息を吸い込むと、遠くから潮の香りが漂ってきた。...

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