第179章

彼はそのまま背を向け、病室へと戻っていった。

夏目夕子はすでに点滴を受けていた。昨夜誘拐され、もともと精神状態が不安定だったところに、今日の出来事が重なったのだ。突然倒れたのも無理はない。

「坂田社長」

ドアの前に立つ庄司一火が、声をかけた。

ベッドサイドに立っていた坂田和也は、その声に振り返った。漆黒の細められた瞳には、氷のような冷ややかさが宿り、それが庄司一火を真っ直ぐに射抜く。

庄司一火は、足元から全身、そして魂の奥底まで凍りつくような悪寒を覚えた。

坂田和也は無言のまま病室を出てドアを閉めると、そのまま階段の踊り場へと向かった。

庄司一火も黙ってその後を追う。

階段に...

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