第204章

記憶を取り戻す前の彼は、よく彼女に花を買い、ミルクティーを買い、小さな贈り物まで用意してくれた。

どれも大した値段じゃない。けれど、彼はいつだって彼女のことを考えていた。

きれいなものを見つけたら、真っ先に彼女に見せたがった。

彼の中で、彼女はいつもいちばんだった。

あんなふうに、心も視界もぜんぶ彼女で埋め尽くされていたカズを——どうして簡単に忘れられる? 簡単に、愛せなくなる?

胸の奥がきゅっと痛み、小林絵里は慌てて思考を畳んだ。余計なことは考えない。

あのカズは、坂田和也に殺された。

いま隣にいるのは坂田和也、ただそれだけ。

冷たくて、情け容赦がなくて、性格がひねくれてい...

ログインして続きを読む