第217章

小林絵里はそっと視線を落とし、何も言わなかった。

――本当は、立田芳子に金を渡すつもりだった。

けれど、あの顔を見た瞬間、急に馬鹿らしくなったのだ。

たぶん、この孤児院を立ち上げた頃の立田芳子は、本気であの子たちを可哀想に思っていたのだろう。彼女自身だって、幼い頃にほんの少しの温もりを受け取ったことがあったのかもしれない。

だが、そこに利害が絡みはじめたら――何もかもが、もう純粋ではいられない。

小林絵里は椅子を引き、どさりと腰を下ろした。

立田芳子は不快そうに彼女をにらむ。

斉藤子玄が慌てて口を挟んだ。

「院長ママ、小林絵里は仕事してないんです。そんな大金、あるわけないじゃ...

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