第223章

「呼ぶな!」

 低く艶のある男の声が闇を切った瞬間、小林絵里の抵抗がぴたりと止まった。

 坂田和也――。

 理由もなく、胸の底に張りついていた恐怖がすっとほどける。もう暴れはしなかった。ただ呼吸だけが荒く、震えがまだ身体の奥に残っている。

 坂田和也が口元を押さえていた手を離す。薄暗い光の中、整った顔立ちの冷えた眼差しが刃のように刺さった。

「小林絵里。辞めていいなんて、俺が言ったか。今のお前は無断欠勤だ」

 小林絵里は長い睫毛を小さく震わせて、淡々と言い返す。

「じゃあ、お給料引いてください」

 坂田和也の表情が露骨に歪む。次の瞬間、彼は絵里の喉元を掴み、無理やり顎を上げさ...

ログインして続きを読む