第245章

  昨夜、たった一人で十数人を相手取り、最後には全員を床に沈めた――あの光景を思い出した瞬間、小林絵里は一気に腰が引けた。

  もしかすると。あの男、本当に人を殺す気だってあり得る。

 「は……はは。わ、わたしたちは法律を守る良い市民でいようね」

 乾いた笑いでごまかし、絵里はくるりと踵を返して外へ向かった。

 坂田和也は、か細い背中をじっと――底の見えない目で見送ると、すぐに机へ戻って椅子に腰を下ろした。ノートパソコンを開き、黙々と作業を始める。

 絵里が彼の好物を買って戻ると、和也は椅子に座ったまま仕事中だった。冷ややかで、研ぎ澄まされた横顔。近寄りがたいのに、どこか育ちの良さ...

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