第258章

部屋に入ると、坂田和也がデスクのそばに座り、冷えた表情でパソコンを見つめたまま仕事を片づけていた。

小林絵里は一瞬だけ顔を強ばらせ、自分のスーツケースを先に客用寝室へ運び込む。戻ってくると、そっと言った。

「もう遅いですし、先に休んでくださいね」

坂田和也は淡々と「……ああ」とだけ返し、パソコンを閉じて立ち上がると、そのまま寝室へ向かった。

彼の背中が扉の向こうに消えるのを見届けて、絵里はふう、と小さく息を吐く。

自分も部屋へ戻り、シャワーを浴びてベッドに横になる。目を閉じた途端、あの獰猛なチベタン・マスティフが脳裏に浮かび、怖くて眠れなくなった。

絵里は起き上がり、指先で髪をく...

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