第269章

「おまえ、何様のつもり? あたしを止めるなんて身の程知らずじゃない。和也お兄ちゃんにひと言言えば、あんたなんか今すぐクビにできるんだから!」

 江口俐央がいきなり手を出したのは、誰も予想していなかった。小林絵里は眉をきゅっと寄せ、松本幸雄を見る。

 松本幸雄は坂田和也の腰巾着ではあるが、これまで絵里に嫌がらせをしたことはない。付き合いは浅い。それでも、理不尽に殴られているのを見ると腹が立った。

 坂田和也の表情が、すっと沈む。

 松本幸雄は落ち着いたまま振り返り、江口俐央に礼儀正しい笑みを向けた。

「そうですか」

 たったそれだけで、さっきまで勢いづいていた江口俐央の顔が、みるみ...

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