第272章

小林絵里は眉をひそめ、彼を見上げた。「どういう意味ですか?」

坂田和也は闇を湛えた瞳で彼女をじっと見つめ、「ここに残れ。俺が守る」と言い切った。

小林絵里の血の気の薄い唇が、すっと一本の線に結ばれる。

――残りたくない。

けれど、彼の言うことはもっともだった。

自分ひとりで安全を確保できる保証なんて、どこにもない。

彼についていくのが、いちばん現実的なのかもしれない。

それでも心の奥は、どうしても拒んでいた。

もう終わったと思っていたのに――それなのに。

ふいにある考えが脳裏をよぎり、小林絵里はぱっと目を開けて坂田和也を見た。

坂田和也は、彼女の手の甲がもう血を滲ませてい...

ログインして続きを読む