第276章

江口俐央は、幻聴でもしたのかと思った。いちばん自分を可愛がってくれているはずの父が、こんなにも厳しい口調で話したことなんてあっただろうか。しかも、フルネームで呼ぶなんて。

その瞬間、江口俐央の胸に、委屈がいっそう膨れ上がった。

「お父さん。今回いじめたのは坂田和也のほうなのに、どうしてわたしの味方をしてくれないの? それどころか、わたしを叱るなんて」

電話口の江口錦は、眉間を指で押さえた。俐央は生まれてから大した苦労も知らずに育った。彼自身、娘が可愛くて仕方がなく、ずっと甘やかしてきた。

娘というものは、こうして可愛がってやるのがいい——そう思っていた。

けれど今は違う。立て続けに...

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