第279章

松本幸雄は泣きたくなった。

誰か教えてくれ。どうして夏目夕子が安町にいるんだ。しかも、よりにもよってここに——。

彼は端に立ったまま、ソファに腰掛けている夏目夕子を見つめ、それからスマホへと視線を落とした。

……なんと。

誰か、助けてくれ。

さっき小林絵里に電話したばかりじゃないか。

坂田社長と小林嬢の関係を、少しでも和らげようと思っていたのに……。

終わった。

たった今、小林嬢が帰っていくのを見た。

小林嬢はきっと、夏目夕子を見てしまった。

もうダメだ。

……

夏目夕子は柔らかな笑みを浮かべ、坂田和也を見上げた。撫でてもらうのを待つ犬みたいに、じっと。

坂田和也の...

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