第282章

小林絵里は一瞬だけ表情を止め、すぐに口を開いた。

「ううん、わたしは大丈夫。……それより、あなたこそ。ケガ、もう治ったの?」

斉藤子玄は小さくうなずく。

「ああ。もう平気だ」

「なら、よかった」

斉藤子玄はふっと笑って言った。

「俺なんか擦り傷程度だよ。……それより、本田智。最近、またおまえに絡んできてないか?」

小林絵りは首を横に振る。

「来てない」

あの一件のあと、本田智は――まるで煙みたいに。忽然と姿を消し、音沙汰がなくなった。

小林絵里としては、ありがたい静けさだった。

斉藤子玄が箸を持つ指に少し力を込める。

「来てないならいい。……で、いつ出るつもりだ?」

...

ログインして続きを読む