第285章

夏目夕子はびくりと肩を跳ねた。スマホを落としそうになる。

 どくどくと暴れる鼓動を必死に押さえ、坂田和也を見て言った。

「和也、電話……鳴ってたから。渡そうと思っただけ」

 坂田和也は歩み寄り、端末を受け取る。画面の着信表示を見た瞬間、端正で鋭い顔つきがいっそう冷えた。

「次はない」

 夏目夕子は唇の端を引きつらせる。

「和也、誤解です。勝手に出るつもりなんて、本当に……」

 坂田和也は彼女を見もしないまま背を向け、部屋を出た。

「……もしもし」

 通話を繋ぐ。

 だが、受話口から小林絵里の声は返ってこない。代わりに聞こえてきたのは、重いものをずるずると引きずる音だった。...

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