第304章

小林絵里の部屋は、まだ売れていなかった。ネットに出しても閲覧は数人程度。

(どうして、誰も買わないんだろう……)

コンパクトな2DK。立地も悪くない。むしろ需要はあるはずだ。

スーツケースをホテルに預け、彼女は華屋団地の自宅へ戻った。

鍵を回して扉を開けた瞬間、ふっと動きが止まる。

久しぶりに帰ってきただけなのに、どこかよそよそしい。知らない家に足を踏み入れたみたいな感覚だった。

――当たり前だ。

ここには、坂田和也との記憶が詰まりすぎている。

多すぎて、見たくもない。

部屋の中をひと回りしたところで、スマホが鳴った。画面には仲介会社の名前。

「はい、もしもし」

小林絵...

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