第321章

小林絵里は一瞬、表情を止めた。すぐに感謝の色をにじませて彼を見上げる。

「寒彦さん、ありがとうございます。……あなたが実の兄だったらよかったのに」

高川寒彦「……」

その瞳に、かすかな挫折が走った。

いつからだ。

彼女の中での自分の立ち位置が――兄貴同然になってしまったのは。

これじゃ、どうしようもないだろ。

高川寒彦は苛立ちを隠せず、がしがしと頭を掻いた。

小林絵里は慌てて問う。

「寒彦さん、どうしたんですか?」

彼は俯いたまま、両手で髪をわしづかみにし、くぐもった声で言った。

「頭がかゆい」

小林絵里の口元が、ひくりと引きつる。

と、そのとき。コンコン、と扉が叩...

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