第348章

「ええ、寒彦さん。ありがとうございます」

 小林絵里はこくりとうなずいた。

 高川寒彦はやわらかく笑う。

「俺にまで改まらなくていい。もう遅いし、帰って休め」

 気づけば外はすっかり夜の色に沈んでいた。

「はい……それじゃ、先に失礼します」

 絵里が立ち上がり、部屋を出ていく。高川寒彦はその背中を見送りながら、細めた目の奥で思案した。

 ――坂田家で、運よく助かった坊ちゃんが誰なのか。あの子は、どうして気にも留めない?

 それとも今の絵里は、坂田和也そのものに興味がないのか。

 ……

 小林絵里が家に戻るまで、頭の中は高川寒彦に言われたことばかりだった。

 鍵を差し込み...

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