第349章

坂田和也は彼女の手を払いのけ、箸を取って食べ始めた。だが、顔つきはひどく険しい。

高川寒彦には毎食趣向を凝らして作るくせに、俺には――あっさりした汁の麺を一杯、か。

小林絵里……いい度胸だ。

小林絵里は傍らに立ち、腕を組んだまま彼を見下ろしている。表情はほとんど動かない。

麺をすする動作ひとつ取っても、坂田和也はやたらと品があった。音を立てず、端正で鋭い横顔に、どこか近寄りがたい高貴さ。見ているだけで妙に目を奪われる。

――箸を置くまでは。

小林絵里が口を開く。

「坂田和也、どうしたら離婚してくれるの?」

坂田和也の顔が、すっと冷えた。

細長い目が氷のように彼女を射抜く。

...

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